読書感想:家族シアター(辻村深月)

家族シアター

お父さんも、お母さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、娘も、息子も、お姉ちゃんも、弟も、妹も、孫だって―。ぶつかり合うのは、近いから。ややこしくも愛おしい、すべての「わが家」の物語。
(amazonの内容紹介から引用させていただきました)

僕は『冷たい校舎の時は止まる』の頃からの辻村深月ファンですが、今回読んだ『家族シアター』は今の年齢で読んだからこその感動があったように思います。
具体的には、昔よりも親目線・大人目線に共感できるようになったというか…。僕も年を取りました。

出来るだけネタバレにはならないように気をつけて書きますが、多少はご容赦ください。

ななつの家族の物語

この作品は全七編からなる短編集です。いずれもテーマは家族。
それぞれのお話での主人公のポジションは、妹、弟、母親、父親、姉、祖父、父親、となっています。これだけ揃っていれば共感できる主人公がいそうなラインナップですね。

出てくる家族は、どれもどこかに居そうなありふれた家族です。
順風満帆で完璧な家族なんていない。それぞれに屈託を抱え、ぶつかり合い、愛憎入り混じっていても、一緒に暮らしています。
(一緒に暮らすしかないとも言えますが)
素の自分だからこそ、イライラをぶつけるし、ちょっとした本音に気づいて嬉しくもなる。家族の絆って不思議です。「嫌い」とか「クソババア」とか罵る時は正面切って言い放つのに、感謝や嬉しさを口にするのはちょっと照れくさい。

『人に合わせる』『空気を読む』『当たり障りなく広い人間関係』が蔓延する現代でも、不器用にぶつかり合うしかない家族達にはなんだか愛しさを感じます。

僕自身はほとんど反抗期もなかったし、特に兄妹へのコンプレックスもなく、家族関係の葛藤ってほとんどなかったんですがこの作品に描かれている心の機微や感じ方には共感出来るものがあります。
性別のせいかもしれませんが、父親や祖父目線への共感が多かったですね。本音で言ってるのに照れ隠しと思われてしまう親父とか、孫を見守るおじいちゃんとか。

不真面目な父親と、隣り合わせの姉妹

お話として好きだったのは『タイムカプセルの八年』と『1992年の秋空』。父親の物語と、姉妹の物語です。

まず『タイムカプセルの八年』ですが、自分の興味優先で生きている不真面目な父親が主人公です。本音が確かに父親としてどうなのって感じではあります(笑)
不真面目といってもダメんずや甲斐性なしというわけではなく、文系の大学講師をしている研究オタクで家族のことに頭が回らないというタイプの不真面目です。
そんな家族のことは母親にまかせっきりな父親が小学校の親父会に半強制的に参加することになり…といったお話。
このお話は、ステレオタイプじゃない子供みたいな思考の父親のキャラが秀逸。
父親の自覚はないままに、面倒くさいと言いながら、なぜだか息子のために動いてしまっている展開が小気味いい。
最後のオチもつい一緒に「あの野郎!」って叫びたくなるくらい爽やかな一編でした。

『1992年の秋空』は、宇宙の話題をからめた姉妹の絆がとても綺麗な物語です。
宇宙や科学が大好きな妹をもつ姉の話なんですが、とある出来事があってからのお姉ちゃんの行動が感動的です。
妹のためなのか、自分のためなのか、わからないけど何かに突き動かされて行動する。その結果としてどんどん世界も、関係も変わっていく。
その過程が鮮やかで、とてもキラキラしています。
宇宙兄弟ならぬ、宇宙姉妹。
…いや、すみませんそこまで姉妹揃って宇宙が関わる話ではありません。

他の4編も、それぞれ等身大の家族を描いています。
きっとあなたも共感できるお話があるはずです。
あ、辻村さんの作品らしくドラえもんが関わるお話もありますよ。

では、今回はこの辺で。