読書感想:かがみの孤城(辻村深月)

”学校での居場所をなくし、閉じこもっていた“こころ”の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうど“こころ”と似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。”
(Amazonの内容紹介から引用させていただきました)

なんて息苦しい…!
傷ついて傷ついて疲れ果ててもう駄目だと思っても、それでも一人は嫌で誰かと居たくて、誰か気付いてよと心で叫んでいる中学生たちのお話です。

舞台の中心は鏡をくぐった先にある秘密のお城。
狼面を被った管理人(?)に導かれ、7人の中学生が願いを叶えるためのあるゲームに参加する…。

ファンタジー×ミステリー×思春期という、僕の大好きな辻村さんデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』を思い出す作品です。辻村さんのこういう作品をもう一度読めてとても嬉しい…!

思春期の繊細さと脆さと純粋さ

あぁ、こんな頃が自分にもあったかもしれないなぁと思います。
身体は大きくなっても心は大人になりきれず、色んなことが割り切れず傷ばかり作っていく。そんな年頃。

この作品で”城”に呼ばれた7人はそれぞれの理由で学校には行っていない子供たちです。
その理由は様々なんですが、学校に行けなくなったことで彼彼女らは自分の居場所を無くしています。

学校に行けない後ろめたさや、親の期待に応えられない自己嫌悪、同級生の容赦ない悪意や無理解な教師…。まじめな子であればあるほど「なぜ自分はこう出来なかったのか」「こうすれば良かったのに」と原因や責任を自分に求めてストレスを抱えていく。そんな息苦しい様子がリアルに描かれています。

相手に怒りをぶつけることも出来ず、うまく言葉にすることも出来ず、助けてほしいのにその手を掴む気力も削り取られている。そんな子供たちが似た境遇の子たちとの交流を通して少しずつ力を取り戻していきます。

人間関係でボロボロに傷ついたはずなのに、それでも仲間を信じようとする子供たちの姿に目頭が熱くなりました。

この物語では”学校”という存在がとても大きなものとして描かれています。
ちょっと大人になれば学校なんて非常に狭い世界だって気づくものですが、まだそうと割り切れない(理屈は知っていても感情では割り切れない)、狭い世界で生きている子供たちが何を感じて、どう大人になるか…。それを描く物語でもあるのかなと思います。

あと個人的に大きな救いだなと感じたのは「わかりあえない人は居る」という事を事実として語っている部分だと思います。子供に対して「話せばわかりあえる」とか「みんな仲良く」とかそういう台詞はほとんど呪いだと思うのです。

価値観を押し付けてこちらの言い分に耳を貸さない相手とは、そもそも話し合いの土俵にすら上がれない。自分の姿勢が問題だとかそういうわけではない事実として”言葉が通じない人は居るものだ”と思えれば多少は呼吸しやすくなるんじゃないでしょうか。

気の利いた舞台装置であると共に願望の現われでもある鏡の城

さて、切実で痛々しい思春期の悩みを引き出して主人公たちに変化を促すのはファンタジーの存在である鏡の城です。
どの家にもあるような鏡をキーアイテムとして、異世界に行けるというのは単純にわくわくします。
「もしこの部屋にある鏡が光ったら…」なんて想像出来るのも楽しいですよね。

管理人(?)である狼面を被った少女”オオカミさま”の、そこはかとなく不気味な佇まいもアクセントとして良い味出してます。辻村さんの描く仄暗い演出がとても好きです。

この城のルールや成り立ちなんかがミステリー要素となるわけですが、仕掛け自体はファンタジーやSFを沢山読んでる人なら割と序盤にピンと来るかもしれません。ミステリー読みなれてるとつい推理してしまいますよねー。
ただし仕掛けがわかっても気持ちはきっちり揺さぶられたので大丈夫です。安心して読み進めてください。

問われる大人たちの姿勢

自分が年を取ったからかもしれませんが、この作品を読むと大人たちの姿勢がすごく問われているように感じます。

それは親としてだったり教師としてだったりと色々な形ですが、子供は自分に大人がどう接しているかとても敏感に感じ取っていて、もし自分が親になる日が来たら気を付けたいと強く思いました。
大人のちょっとした言葉で自信を無くしたり、安心だと思っていた居場所が一変したりと、その影響は計り知れないのでしょう。

子供から信用してもらえる大人になるには、真剣にその子個人と向き合っていくしかない。
一般論とか常識で計ることなく、その子の気持ちや考えを聞けるようになる。その積み重ねが大事なんでしょうか。僕にもよくわかりませんが、いつか自分が親になる日が来たら自分の子供に対してくらいはそういう大人になりたいなと思います。

それにしても、自分が中学生のころって親や教師に対してそんなに敏感だったっけ?
と言われると非常に怪しいんですが、心当たりがないのは幸せな子供時代を過ごしたのかなと思いちょっと親に感謝しました。

長々と感想を書いてしまいましたが『かがみの孤城』おすすめですので是非ご一読ください。
個人的にはぜひ中学生、なんなら小学校高学年あたりの子供や、その年頃と接している親や大人たちに読んでほしい一冊です。