読書感想:限界集落株式会社(黒野伸一)

限界集落株式会社

ルールは変わった。新しい公共がここに!
「限界集落」、「市町村合併」、「食糧危機」、「ワーキングプア」、「格差社会」などなど日本に山積する様々な問題を一掃する、前代未聞! 逆転満塁ホームランの地域活性エンタテインメント!!
起業のためにIT企業を辞めた多岐川優が、人生の休息で訪れた故郷は、限界集落と言われる過疎・高齢化のため社会的な共同生活の維持が困難な土地だった。優は、村の人たちと交流するうちに、集落の農業経営を担うことになる。現代の農業や地方集落が抱える様々な課題、抵抗勢力と格闘し、限界集落を再生しようとするのだが……。
(amazonの内容紹介から引用させていただきました)

今回読んだのは黒野伸一さんの『限界集落株式会社』です。最近は農業や地域振興に少し興味があって手に取りました。思った以上にエンタメな展開で、さくさく読み進めることが出来ました。

個人的にみどころだったのは、都会から来た経営のプロ多岐川が多少強引ながらも合理的に農家の収益向上に奔走する姿。
元は銀行員として様々な企業を査定してきた多岐川は、農業はド素人だけど経営は出来ると断言してものすごい行動力とリーダーシップで村の農家をまとめあげてしまいます。初めは、多岐川が机上の空論と農家の現実にもっと七転八倒するもんだと思って読み進めましたが、これがまあ思ったよりも策略が色々上手くいって見ていて爽快でした。農村がどんどん改善されていく様子は、全体的に明るく前向きな雰囲気に満ちています。

もちろん合理主義者の多岐川に対して、生産現場主義の農家らの反発や村社会特有の軋轢も描かれますが、それらの代表者が美穂という若い女性を通して描かれています。この美穂は若者の少ない村の中で、若いうえに農業に対してとても真摯かつ物怖じせずはっきりとものを言う性格。多岐川との衝突も常に正面衝突で堂々としているもんだから、非情にさっぱりとしていて陰湿さがありません。

多岐川もそんな美穂や老人たちとの交流を通して、徐々に机上の理論だけに囚われていた(それでも上手くはいくのですが)自分の見識の狭さに気付いたり、農業の面白さ、村への愛着を持ち始めたりします。持ち前の合理性といい具合に折り合いをつけて成長し、美穂や村の人々と前に進んで行く姿は王道で読んでいて気持ちいい。

あと、読んでいて、日本に足りないのは多岐川みたいな経営のプロだよなぁなんて事を考えてしまいました。
それこそ、ここで描かれているような農村は日本中にある気がします。足りないのは、多岐川のような稼ぐノウハウや、稼ぐということへの意識改革。日本人はものを作るってことに大しては実直で真面目にやるけれど、そういう人ほど金勘定について考えるのは疎い気がするので…。若い人はそういうことを積極的に学んで、昔から生産に携わっている方々は学んだ若い人の声にきちんと耳を傾ける、そういう雰囲気が出来れば蘇る村はたくさんあるのではないでしょうか。まあ多岐川のようにMBAを取得するなんてのは若干ハードル高いですが。

最近は、いろいろな地方で就農研修や、地域PRのための住み込み広報官を募集してたりといった取り組みが広がっていますよね。農業だったり漁業だったり畜産だったり、どの分野でもそういうのに興味のある方はこの本を読んでみると面白いと思います。地域活性化の色々とヒントが詰まっています。

そしてなによりも、前向きな限界集落の底力に元気づけられる一冊でした。

限界集落株式会社
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