流転する災いの終結か。消えゆく妻の生命か。
夫の、最後の選択。
陸郎宅に居候しながら、村に留まる雪之丞。朝日を救う唯一の手掛かりは、六十年前の出来事を記録した“祭文”だった―――。
冬至の祭事“嫁拝み”も終わり、季節は大晦日。雪が降りしきる中、妻は裸足で夫のもとに。
妻同様に、夫もまた、選ばれし者だった。
(amazonの内容紹介から引用させていただきました)
※若干ネタバレを含みます!未読の方にはお勧めしません。
→ 1、2巻の感想はこちら
前巻で妻・朝日のために迷わず動くことを決意した夫・雪之丞がついに“おぼすな様”の前に立ちます。初めは感情を殺して生きていた雪之丞が、朝日への想いを自覚し、炎のような強い衝動に突き動かされていく。
ふたりはもう結婚しているけれど途中で「あぁ、これはふたりの“恋”の話なんだ」と思いました。
おぼすな様の不思議に引き裂かれていく、朝日と雪之丞。
朝日はもう何年も前から自分がおぼすな様に曵かれていくことを感じていたようで、その事実を静かに受け入れているように見えました。反対に雪之丞は、なんとしてでも朝日を助け出そうと苦悩し、六十年前の真実にも辿り着く。
そこまでしても突破口は見えず、朝日が曵かれるカウントダウンは止められない。
物語の転換点は、朝日からこぼれ落ちた一言。それが雪之丞の心に火を、いや劫火を灯す。
愛するもののため、自分は鬼にでもなろう。
雪之丞の怒りに呼応して、物語は一気にクライマックスになだれ込む。
文字から絵から、雪之丞と朝日の想いが溢れ出て来るようで物凄く引き込まれました。
丁寧に描かれるふたりの心境の変化と、絶妙な表情で最後の方は胸が苦しくなります。
他の何を犠牲にしても、お互いに生きていてほしい。そんな尋常じゃない想いも、これまで積み上げられてきた物語の説得力で白けることなく共感することが出来ました。
神様に対抗するために必要なものは、強く激しい、ともすれば非常に自分勝手な想いでした。
雪之丞が出来る事は最初からひとつしかなかった。
決めることが出来るのは、朝日のみ。
ふたりは自分たちを鬼だと言いましたが、その心も言葉もむしろ人間だったと思います。
神様の側に行きかけていた朝日を、人間として連れ戻した雪之丞の想いの強さに拍手。
きっと、このふたりが本当に夫婦になったのはラストシーンだったのでしょう。
大団円のハッピーエンドではないけれど、個人的に大満足の最終巻でした。
田中相さん、ありがとうございました!
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