読書感想:漫画『BIRDMEN』(田辺イエロウ)※12巻発売にて追記しました

BIRDMEN(1) (少年サンデーコミックス) BIRDMEN(2) (少年サンデーコミックス)

”「一人の方が気楽だ」
変わらない日常に不満をもらす日々を送る、中学生の烏丸英司。ある日、学校中で広まる「鳥男」の噂が、彼の“変わらなかったはず”の日常を大きく変えていくことに…!?
『結界師』の田辺イエロウが描く「SF×青春ジュブナイル」待望の第1巻!!”
(amazonの内容紹介から引用させていただきました)

「SF×青春ジュブナイル」の看板に偽りなしです!
田辺先生の作品は『結界師』『終末のラフター』と好きな作品が多いですが、今回のBIRDMENもとても面白いです!この作品は今はサンデーで月一連載されており刊行ペースはゆっくりですが、一話一話の読み応えが半端ないです。

SF的な科学や種の存続、社会とマイノリティといった壮大なテーマと、思春期の少年少女の葛藤が絶妙な具合で融合されているので、子供でも大人でも別のところで楽しめる作品だと思います。
独断と偏見ですが有名どころの『鋼の錬金術師』『亜人』『東京喰種』なんかが好きな人はハマる漫画だと思います。むしろBIRDMENがあまり注目されてない事のほうが不思議…!

※ここからは極力注意しますが若干ネタバレを含むかもです。

これはジュブナイル和製X-MEN!

BIRDMEN(3) (少年サンデーコミックス) BIRDMEN(4) (少年サンデーコミックス)

作品のタイトルにもなっているのは鳥男は、作中世界で都市伝説として登場します。
”見たら幸せになれる”、”困った人を助けてくれる”といった実在するとは全く思われてなかった存在ですが、とある出来事をきっかけに主人公:烏丸英司たちの前に舞い降ります。
そして自身も鳥男となり謎の化け物と戦ったりもするわけですが、この漫画の趣旨はそういったバトル展開ではありません。
鳥男とはなんなのか?といったSF的ミステリーの追求と、鳥男というマイノリティになった自分たちはどう社会で生きていくのか?といったテーマを描いています。

特殊能力を身につけたマイノリティと現人類社会はどう生きていくか?その力をどう使っていくか?まるでアメコミのX-MENのような葛藤を、現代日本で中学生たちが繰り広げます。

田辺先生の描くダークな雰囲気や登場人物たちのエゴや闇の描写も健在で、日常パートでもどこか不穏な気持ちになったりします。

シリアス展開の中でもくすりと笑える中学生の日常

BIRDMEN(5) (少年サンデーコミックス) BIRDMEN(6) (少年サンデーコミックス)

この漫画の主人公たちは、みんな普通の中学生です。
鳥男として世界の暗部を垣間見ることにはなるんですが、それと対比してなのかとても丁寧に中学生として、子供としての日常や心情を描いています。

女子と話すのが苦手だったり、つまらない見栄で挙動不審になったり、男子同士では気軽に罵倒しあったり…。最初はそれが当たり前でつまらないものとして描かれますが、物語が進み暗部が這い出してくるにつれそういった日常がきらきらと楽しいものに見えてきます。

またそういった対比構造抜きにしても、主人公たちの会話がコントとして普通に笑えます。シリアスと笑いの比率が絶妙で、演出の効果を引き立てています。
や、ホント小難しいこと抜きにして普通に面白いんですよ。男子中学生の馬鹿なノリや、サポートしてくれる大人も含めたコメディパートが。

子供が成長の果てに選ぶのは大人か鳥男か

BIRDMEN(7) (少年サンデーコミックス) BIRDMEN(8) (少年サンデーコミックス)

作中でもキーとなる設定に、鳥男としての成長があります。
特殊能力も身につけるんですが成長していくごとに精神にも変化が訪れ、家族だったりクラスメイトだったりとの接し方が変わっていきます。

その様子はまるで「子供が大人になっていく」過程とダブって見えるんですが、近づいているのは人間としての大人ではなくあくまで”鳥男”。大人とは別物です。
しかし成長に対する反発や葛藤、またある部分では受け入れて進んでいく強さを手に入れる過程は子供から大人になる時に誰もが感じるようなものばかり。
読んでいる大人としてはノスタルジーと共に主人公たちを応援せずにはいられません。

作中ではそうやってミクロな部分では「主人公たちの子供から大人への変化」を扱う一方で、鳥男という事象を通しては「現生人類から新人類への転換期」という種全体の変化を描くという、物語が相似の二重構造になっている点がとても魅力的です。

心のあり様が世界のあり様に直結しそうな部分は、ある意味ゼロ年代に流行ったセカイ系にも近いかもしれません。しかしこの作品では現代の情報化社会やSNSに象徴されるような”他者とのつながり”、”つながることの意味や力”も物語に織り込んでおり、それとは違う個性を獲得しているように思います。

加速する変化!日本を飛び出し舞台は世界へ (10巻発売につき追記 2017.6.24)

新刊が発売されましたね!9巻の最後で日本を飛び出した烏丸たちは、ついに鷹山と再会。
鷹山は相変わらずのふんわり発言で、いまひとつ要領を得ない。そんな状況に苛立つ烏丸ですが、彼らの悩みとは関係なく世界は刻々と変化していきます。

イヴたちによってか、”針が進んだ”からなのか、世界中で増え続ける鳥男たち。次々と覚醒する子供達は多種多様な能力を開花させていきます。
急激に数を増やす人類の上位互換種に、現生人類(EDENも一般人も)はどんな反応を示すのか…。

切り札擁する烏丸たち日本エリア、無秩序に急拡大する中国エリア、EDEN管理の欧州エリア、人類への憎悪を秘めるロビン在席のアメリカエリア、世界各地でくすぶる変化の火種は燃え上がる時を待っているかのようです。

物語のスケールが大きくシリアスになってきましたが、ところどころくすりと笑えるところも健在。海外チームがピックアップされるようになってからは、ひとさじのロマンスも加わって不意打ちされます。

現実でもそうですが、恋愛表現においては海外チームと日本チームでだいぶ違いがあってそれがが面白いです。
アーサーやバルバラに比べると烏丸や海野なんかの恋愛感情は幼く微笑ましい…。海外ドラマなんか見てても海外の高校生は日本の高校生より、恋愛スキル高いなーとよく思います。

続々と現れる未来への可能性!選択の時は近いのか (最新12巻発売につき追記 2018.4.20)

凝りもせずまた追記します。BIRDMENは毎回新刊が待ち遠し過ぎます。まるで一気読み不可避の長編小説を読んでいるような面白さなのに連載漫画なので一気読み出来ないのが辛い…!

世界に飛び出してからはヨーロッパ、中東、そして最新刊ではアフリカと大移動を繰り返している主人公たち。
鷹山の言葉に導かれ「はじまりの七翼」を探しながらも自分たちがどんな未来を望むのか、その答えは見えないままに世界の変化は加速します。

11,12巻では多種多様な能力が続々登場。
『幻影使い』のマジ王子であるサクル、中国チームを率いる『煌炎者』の光鳳を筆頭に『予測者』『均衡者』などなど中二心をくすぐるような、物語のキーになりそうなキャラや能力がたくさん出てきます。良いですねワクワクします。
アフリカの新キャラであるマライカの能力も非常に気になるところです。

12巻までは鳥男の多様性やポテンシャルといった未来への可能性を強く示している気がしますが、今後は動き出したEDENや人類である家族との繋がりなど、現在や過去と向き合ったり衝突していくのかなと思います。

そして変化の最前線には決して立てず置いていかれるE3は敵でもなんでもなくて、”悲哀と絶望”の部分を一身に背負っているように見える。彼女たちとFOXには何かしら救済があると良いですね…。

最後にひとつ。
11巻の帯にピックアップされている「今、奇跡が起きている!」って台詞、作中で出て来た時は「そこかよ!!」って声に出してツッコミを入れてしまいました。帯作った人良いチョイスですね。

さて、長々と書いてしまいましたがBIRDMENはまだ連載途中。これからどう物語が展開されていくか非常に楽しみです!